編小説「縁」本編・15編目
※目次ページはこちらhttp://hayashi-monogatari.blog.so-net.ne.jp/2016-10-28

お盆が近づいてきた。いつものごとく家で地味に過ごす予定の静也と理沙。それでも楽しく過ごそうとお盆の計画を立てるのだった。お盆の由来、歴史、雑学満載。(4700字)

では、以下本文。

   ・・・

 蝉の声がシャワーのように降り注ぐ8月。

 昔は『葉月』と呼ばれていた『葉が落ちる月』。
 ――『葉落(はおち)月』から『葉月』となったと言われている。

 そう、旧暦8月8日は立秋だ。

 しかし新暦の8月は夏真っ盛り。
 木々の葉は日焼けをしたかのように黒っぽい深緑色となり、茹だるような暑さに何もかもがとろけそうな、そんな季節。

 夕方になっても、ねばりつくような熱気が残り香となって漂う中。仕事を終え、静也と理沙は汗を拭き拭き、黙々と帰途に就く。
 しゃべると、さらに体力を奪われそうだ。

 それでも住宅地に入ると、途中、近所の家々で打ち水を行っているところもあり、心なしかホッとする。
 濡れた路地にわずかながら涼を得られた気分になり、静也は口を開く。

「打ち水って、神様が通るってことで道を清めるために行っていたんだよな」
「……へえ、そうなんだ」

 神様の通り道――ちょっと素敵な話に、理沙も反応する。

「江戸時代から、涼を得るのが目的になったみたいだけどな」
「生活の知恵だね」
「ま、今の時代じゃ、焼け石に水って感じだけどな」

 歩き進めると、再びねっとりした空気が体にまとわりつく。
 妊娠中の理沙は辛そうだ。お腹もだいぶ大きくなってきた。
 あと1週間ほどで産休が取れる。もうしばらくの辛抱だ。