短編小説「縁」本編・14編目
※目次ページはこちらhttp://hayashi-monogatari.blog.so-net.ne.jp/2016-10-28

今回はアラフォー独身女・小林和江が主人公。
そう、番外編「お彼岸―アラフォー女子の幸せ」および本編8編目「悩ましき桃の節句」に登場し・・・
妊娠した理沙へマタハラを行ったとして、その夫である静也からも嫌悪されている小林主任だ。
しかし彼女には彼女なりの考え方があるのだった。(4750字)

では、以下本文。

   ・・・

 七夕の夜。小雨に濡れる閑静な住宅街に外灯のぼんやりした明かりの下に姿を現す2階建ての家。

 その玄関口で小林和江は傘を折りたたみ、ドアを開けた。
 靴を脱ぎ上り框に足を乗ると、ある種の緊張感から解かれ、心が弛緩する。

「ただいま」
 和江は台所を覗き、母に声をかける。

「おかえり」
 今年64歳になる母の声と共にコトコト音を立てる鍋の音と夕餉の匂いが和江を包む。

「先にシャワー浴びてくるね」
 早く化粧を落としたい。武装を解き、外でかぶってきた様々なものを洗い流したい。
 和江は踵を返し、浴室に向かった。