春のお彼岸・この世も悪くない [本編「~縁2」(短編連作小説集)]
短編小説「縁」本編・31編目。
※目次ページはこちらhttp://hayashi-monogatari.blog.so-net.ne.jp/2016-10-28
春のお彼岸の日。お墓参りする四条カップル。
そこでなんと、あのアラフォー独身女子・小林和江とすれ違う。
その和江は、母と弟夫婦と一緒に来ていた。
お正月にお金のことで険悪ムードのまま別れた弟夫婦とのいざこざはいったん収束するのだが・・・。
その和江の解決策とは。(7150字)
お彼岸の雑学満載。
そして新キャラ(和江の従弟)登場を匂わせる回となりました。
※オタク漫画家・沢田文雄――今後、短編小説「これも何かの縁」でのメインキャラとなっていきます。
もちろん、漫画つながりで、あの長山春香も絡んできます。
沢田文雄は5月編(34編目)から、長山春香は6月編(36編目)から登場します。
では、以下本文。
・・・
お彼岸の休日。
春の訪れを感じさせる暖かい日となり、静也と理沙は息子の涼也を連れて四条家のお墓参りに来た。
仏教では、煩悩に満ちた現世を『此岸』、この世を渡り切って到達した悟りの境地を『彼方の岸=彼岸』と呼んでいる。
煩悩から解き放たれた彼岸は極楽浄土だ。そこで彼岸は『極楽浄土=死者が行くあの世』と捉えられるようになっていったのだろう。
そして此岸は東にあり、彼岸は西にあるとされていることから、太陽が真東から顔を出し真西に沈む昼と夜の長さが均等になる春分と秋分は『この世である此岸』と『あの世である彼岸』が通じる時と考えられるようになり――春分・秋分の日にあの世にいる先祖を供養するようになったのだ。
と、お寺への道中、お眠の涼也を抱っこ紐で前に抱きながら歩く静也のうんちくが例のごとく始まっていた。
「けど、お彼岸って日本だけの行事なんだってな。インドやほかの仏教国にはないらしい」
「へえ」
理沙は適当に相槌を打つ。以前のお彼岸の時も聞いたような聞かなかったような……ま、いつもの四条夫婦の風景だ。
一家は古びた寺の門をくぐる。その両脇には参拝客を出迎えるように彼岸桜が枝を伸ばし、薄桃色の花を咲かせている。ふんわりとしたそよ風が心地よい。
まず寺の本堂を訪ね、住職に挨拶をした後、墓地へ向かった。
歩を進めていくうちに、街のざわめきが消えていき、異世界に入り込んだ気分になる。
お参りする人々の間を縫いながら石畳の道を行くと数々の墓石が見えてきた。
あちこちから漂ってくる線香の匂いが鼻をくすぐる。
「ここだね」
四条家の墓は、他家の大小様々な墓石が並ぶ中にひっそりと佇んでいた。
静也の腕の中で涼也がぐずり出した。いや、ぐずったのではなく涼也なりのご先祖様への挨拶なのかもしれない。
涼也のことは静也に任せ、墓石の前に立った理沙は頭を少し垂れながら、近くの店で買った金盞花を供え線香をあげた。
なお、水かけはやめておく。
先祖や故人の魂が清められるという説もあるけれど、ご先祖様に冷水をかける行為で失礼になるという考えもあるようだ。
静也があやしているうちに涼也がおとなしくなった。
墓前で二人は涼也のことを報告する。
淡い日差しの中、線香の煙がゆらゆらと立ち上り、そよ風の中へと消え、穏やかな時が流れる。
この世とあの世がつながるお彼岸の日、線香の匂いに導かれ、トリップした気分を味わうものの、墓参り客のざわめきが耳をくすぐり、現世に引き戻される。
「さてと……行こうか」
「うん」
静也と理沙は元来た道を引き返す。涼也はまたうつらうつらとしている。
ふと辺りを見回すと、あちこちのお墓にはお花やお線香のほかに供物として『ぼたもち』を捧げているところもあった。
「お彼岸といえば、やっぱり『ぼたもち』とか『おはぎ』よね」
甘いものが大好きな理沙はちょっと物欲しそうな目を向ける。供物として一時的に置かれているものの、持ち帰るように住職からお願いされているので、帰ったらあとでいただくのだろう。
すると静也はこう応えた。
「春のお彼岸は『ぼたもち』だな。『おはぎ』は秋だ」
「あ、そうか。中身は同じようなものだよね」
「ああ、季節で呼び名が変わるだけだよな。ぼたもちは春に咲く牡丹から来ているんだ。おはぎのほうは秋に咲く萩の花ってわけだ」
「なるほどね」
「牡丹は大きくて丸い花だから、ぼたもちも丸く大き目に作られるよな。一方の萩は、小ぶりで細長い花だから、おはぎも小ぶりに俵型にしているってことで、形が違うよな。で、ぼたもちはこしあん、おはぎは粒あんだよな」
「そういえば、そうだよね」
「ぼたもち、帰りに買っていくか?」
「もちろん」
そんな話をしつつ、涼也を抱っこした静也と理沙は寺を後にする。理沙の家のお墓へは次の休日の時に参る予定だ。
「お腹も空いたし、ちょっと急ごうか」
「そうだね。涼也にとって長過ぎる外出は避けたいしね」
静也と理沙は足を速めた。
道の途中で、墓参りにやって来た人々と何度かすれ違う。
が、その中に見知った顔があり、思わず足を止めてしまった。
相手も意外そうな顔をして、こっちを見ていた。あの小林主任だった。
あまりに突然のことで静也も理沙も頭を下げるものの、気の利いた言葉が出てこない。
先に小林主任のほうから声がかかる。
「あら、奇遇ね。お寺はこちらだったの?」
主任の隣には母親らしき人、その後ろに夫婦らしき大人の男女とその娘だろう女の子がいた。
「あ、はい」
静也と理沙は顔を見合わせ頷いたが、どう会話を繋げればいいのか分からず、口をつぐむ。
その間に小林主任は「それじゃ、先を急ぐので失礼」と軽く会釈をし、連れの人たちに静也と理沙を紹介することなく、赤ん坊の涼也について何かおべっかを言うのでもなく、早々に去っていった。
二人はホッとする。小林主任の後ろ姿を見やり、反対方向へ歩を進める。
「まさか……こんなところで会うなんてな」
「びっくりした~」
小林主任が話を長引かせずに、すぐに行ってくれて良かった、というのが二人の正直な気持ちだった。
小林主任のほうも、そんな静也と理沙の気持ちを察してくれたのかもしれない。
せっかくの休日、煩わしいことからは距離を置きたい。親しくない職場の知人への挨拶なんて面倒以外何物でもない。
確か、寺へ行く途中に和菓子店があったっけ。そこで、ぼたもちを買って、早く帰ろう。
静也と理沙の足はいっそう速まる。
・・・
――こんなところで四条カップルに会うなんて……。どっちの家かは知らないけど、まさか同じお寺とは……奇妙な縁があるものね。
小林和江は母と弟家族と共に小林家の墓参りに来ていた。
今までならお彼岸のお墓参りなど何かと理由をつけて断っていた弟夫婦は今回、母の敏子に「大切な話がある」と誘われ、それが自分たちへの経済的援助つまり生前贈与の話になることを察し、やって来たようだ。
――現金なものね……。
和江は改めて弟夫婦に呆れた。
子どもへ分不相応な教育費をかけ、経済的余裕をなくすよりも、そういう自分たちの心根を正してほしいものだ。
和江と弟夫婦は、お互い目線をあまり合わせず、距離を置いていた。会話もなかった。
和江は密かにため息を吐く。
四条静也よりも、弟夫婦との関係のほうがずっと険悪になってしまった……。
お金が絡むと家族の情も簡単に吹っ飛んでしまう。
が所詮、姉弟の絆とはそんなものかもしれない。所帯が別になれば、縁は薄くなる。下手すれば敵対する。
小林家の墓に着くと、和江らは花を手向け、線香を立てた。黙とうし手を合わせる。線香の匂いが束の間、気分を落ち着かせてくれた。
こうしていつもの儀式を終えた一同は今来た道を引き返し、寺を出て、その足で予約しておいた和食レストランへ向かう。寺から5分ほど歩く距離にある和江の母・敏子のお気に入りの店だ。
そこは古民家を彷彿させる2階建て木造建築で、店内はほのかな暖色系の灯りが燈り、レトロな雰囲気を漂わせていた。
一同は座敷に案内され、それぞれが席に着く。
和江と母・敏子が並び、向かいに弟家族が座った。
弟夫婦の一人娘の恵理子も両親に挟まれ、おとなしくしていた。聞き分けが良く頭がいい子だ。
和江も、姪に当たる恵美子のことは内心買っていた。
お茶とおしぼりが出てきて、一息ついたところで敏子が口を開いた。
「で、これからのことなんだけど……5月から文雄君がうちで暮らすことになってね」
「え? 文雄君が? どうして?」
弟の和彦が怪訝そうな顔を母親に向ける。妻の真理子も眉をひそめていた。
和江はすでに知っていることなので、何の反応もせず黙ったまま、お茶を啜る。
「文雄君、やっと漫画の連載の仕事がとれたらしいのよ」
母・敏子もそのまま弟夫婦にことの詳細を説明する。
沢田文雄は今年35歳になる和江の従弟。母・敏子の姉の息子だ。
和江は先日、小林家の部屋を借りることで挨拶に来た文雄のことを思い出す。
――文雄は相変わらずおとなしく、人前でしゃべるのが不得手そうだった。
いや、自分の得意分野であればノリノリでお話できるのだけど、それ以外の話題にはついていけず、基本、人の輪に入るのが苦手な青年だ。いわゆる世間一般で言われているオタクというヤツである。
礼儀正しく真面目であることが唯一の取り柄。メガネをかけ、風貌もひょろんとして、とても30半ばには見えず、ややもすれば大学生でも通る。
でもそれは若く見えるというよりも、幼く見えるといったほうが正しかった。
そんな文雄は大学卒業後も漫画家を目指しながらバイトをし、親と一緒に実家で暮らしていた。父親は6年前に亡くなっている。
30歳の時にやっとデビューできたのだが、デビューしてすぐに商業誌で連載がとれる漫画家などごく僅かだ。その後も読み切りがたまに載ればいいほうで、デビューしたはいいがそのまま消えていく人も多い。
そして漫画連載の仕事が決まる10カ月前、文雄の母親が脳出血を起こして倒れ、不自由な体となった。
息子に面倒はかけたくないと、文雄の母は介護付き有料老人ホームに入ることを決め、その資金に家を売ることになっていたのだが――文雄の母は息子のことをしきりに心配していた。
連載の仕事が決まったのはいいが、原稿料だけで生活を賄っていくのは相当に厳しい。アシスタントの人件費などで原稿料はほぼ吹っ飛んでしまう。
なので安く借りられる仕事部屋があるといいのだけど、といった相談を和江の母・敏子は受けていた。
漫画連載の仕事にはアシスタントが2、3人ほど必要で、徹夜仕事で寝泊まりすることもあり、そのためある程度の広さが欲しいという。
が、その連載もどのくらい続けることができるのかは分からない。それは読者の人気投票で決まり、人気がなければ打ち切りとなる不安定極まりない厳しい世界だ。
その話を母から聞いた和江は「うちは部屋は余っているので、文雄が使ってはどうか」と持ちかけた。
「その代わり、自分はこの家を出ていく」「弟夫婦の不信感を払拭するためにもそのほうがいい」と自分の考えを母に聞いてもらった。
文雄から家賃を取り、それを弟夫婦への援助に使えばいい。自分がいなくなっても、親族である文雄が母の傍にいてくれるなら安心だ。
和江と弟夫婦の溝に心を痛めていた母・敏子もその話に乗った。それが一番いい解決策に思えた。
敏子の姉=文雄の母もそれなら安心だと喜んでくれた。
万一、文雄が経済的困難に陥っても、そこは親族のよしみで猶予を与えられ、ある程度の融通を利かせてもらえるだろう。これで心置きなく家を売って、老人ホーム入居費用の足しにできる。
――そういった話を敏子は、息子の和彦とその妻の真理子に聞かせた。
母の話が一段落ついたところで、和江が口を開く。
「というわけで私は家を出るから、これでいいでしょ?」
そう言って、弟の和彦とその妻の真理子へ交互に視線を向けた。
和彦は憮然としたまま和江を見返す。
「文雄君にいくらで貸すの?」
「さあ、それは知らない。私が決めることではないしね。あそこは母さんの家だから」
そう応えた和江は、母に目をやった。
母は和江に頷き返し、再び和彦へ視線を戻す。
「まあ、文雄も最初は経済状況が厳しいらしいから、当分、家賃は月5万円で……」
「安くないか? キッチンや風呂やトイレも使うんだろ。で、それは母さんが掃除するんだろ? 食事は別々なの? 水道や光熱費の負担は?」
和彦は憮然とした表情を今度は母に向ける。妻の真理子も眉をひそめたままだ。
「そうねえ、お料理はどうせ余るから食べてもらって、食費もいくらかいただくことにしようかしらね。水道や電気料金のことは考えてなかったわ。確かにこちらもいくらか負担してもらったほうがいいのかしらねえ」
「そういうことも決めてなかったの? 曖昧にしないでちゃんと決めないとダメだろ」
「確かにそのとおりね。そのへんは文雄君と相談してみるわ」
母・敏子は相変わらずのんびりした調子だ。
「口約束ではなく書面にしたほうがいい。姉さん、そういったところの面倒は見てないの?」
埒が明かないと思ったのか、和彦は苛立ちの色を隠さず、責めの矛先を和江に向ける。
「だって私が口出ししたら、あなたたちが嫌がるでしょ? 私を信用してないようだし」
和江は片眉を上げ、皮肉で返した。
「まあまあ、二人とも喧嘩腰になりなさんな。その辺にしておきなさい」
母は和江と和彦をたしなめると、こう応えた。
「詳しいことは文雄君と相談して決めておくわ」
すると「お客様、失礼致します」とお店の配膳人が現れ、注文した料理を運んできた。
「まあ、おいしそう」
場の空気を変えようとするかのように、母・敏子は声をあげた。
小鉢に入った前菜――胡麻だれの豆腐サラダ、帆立と三つ葉の胡桃あんかけ、菜の花の白和えがテーブルに並んだ。
「さあ、ギスギスした話はここまでにして、いただきましょう」
母はポンと手を叩く。
「そうね。いただきます」
和江も母に倣うと、和彦と真理子も後に続いた。
大人たちの尖がった場が和らいだことで、弟夫婦の娘・恵美子も強張らせていた頬を緩ませ「いただきます」と手を合わせた。
「恵美子ちゃんはほんとイイ子ね。真理子さんのしつけの賜物ね」
敏子は真理子と恵美子に笑みを投げかける。
真理子も「恐れ入ります」とはにかみ、愛娘を見やった。
各々は箸を取り、日本料理の繊細な味わいに舌鼓を打つ。
敏子は度々、孫の恵美子に話しかけ、和彦も真理子もその会話に参加し、刺々しかった空気は穏やかなものになっていった。
和江は一歩引き、その様子を見守る。自分はその輪に入れないが、母が楽しそうにしていることでホッとする。
その後、茶わん蒸しや春野菜の天ぷら、刺身、鰻のセイロ蒸しが次々と運ばれてきた。
各々は繊細な味付けの和風料理をゆったりと楽しむ。
締めは筍とあさりの炊き込みご飯と汁物――春の風味が口いっぱいに広がる。
恵美子はまだ幼いのに、この大人向けの料理の味が分かるのか、おいしそうに食べている。味覚も発達しているようだ。そこいらの子どもとはちょっと違う風格のようなものを恵美子はまとっていた。
――なるほど、弟夫婦が娘に期待するのも無理はないか。
和江は感心しながら恵美子を見つめた。
大方の料理を食べ終えた頃を見計らい、和江は弟夫婦に念押しするように話しかけた。
「これでお互いスッキリするでしょ。距離を置いて、大人として上手くつきあっていきましょう。何事にもできるだけ公平を心掛けて。負担も平等にね」
和江の言葉に弟夫婦は居心地悪そうにお互いを見合うだけだった。
そう、正月に弟夫婦から発せられた和江への不信感――あの時は愕然としたが、弟夫婦から見れば、当然かもしれない。
自分の認識が甘かった。ならば弟夫婦が疑心暗鬼に陥らないように振る舞うしかない。実家を出るのが一番だ。弟夫婦が和江に対して抱えていた不公平感は、これで解消されたはずである。
しかし……弟夫婦からそう思われていた事実は消せない。無礼な言動をした弟夫婦から真摯な謝罪がない限り、打ち解けることはないだろう。
和江は自分の権利はきっちり主張していくつもりだ。
弟夫婦が、母から特別に経済支援を受けるのならば、母が介護が必要になった時、彼らにも相応の負担を求める。
それがなかった場合、遺産相続の取り分において、弟夫婦が生前贈与を受けていたことを考慮してもらうことになる。
こちらが不当に譲ったりすることはない。
そんなことを考えてしまう自分が嫌になるが、お金が欲しいわけではなく、蔑にされるのが許せないのだ。自尊心の問題だった。
が、今の弟夫婦の態度からも、和江のことを尊重してくれるとは思えなかった。この調子では将来も何か問題が起きる度に面倒な話し合いが生じ、その度に心をすり減らすのだろう。
和江は小さくため息を漏らす。
欲や自尊心を捨て去った悟りの彼岸に到達するのは難しい。
でも、煩悩に満ちた現世である此岸で迷いながら生きるのが人間の宿命かもしれない。
そして死を迎える時、己が消滅することで、欲や自尊心から解放され、彼岸へ行けるのだろう……。
「デザートをお持ちしました」再びお店の配膳係がやってきて、テーブルの上を片付け、ガラスの小鉢に丸く盛られた豆乳と小豆のアイスクリームを置いていった。
薄黄色の豆乳アイスには黒蜜がかかっている。
和江はスプーンでその豆乳アイスをすくい、口へ運んだ。
――おいしい……。
上品な甘さが口の中でとろける。
ささくれた心が和み、満たされる。
――欲にまみれた此岸の世界も悪くない……。
ふとそんなことを思った穏やかなお彼岸の春の日。
此岸と呼ばれるこの世を存分に楽しもうと思い直す和江であった。
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春のお彼岸の日。お墓参りする四条カップル。
そこでなんと、あのアラフォー独身女子・小林和江とすれ違う。
その和江は、母と弟夫婦と一緒に来ていた。
お正月にお金のことで険悪ムードのまま別れた弟夫婦とのいざこざはいったん収束するのだが・・・。
その和江の解決策とは。(7150字)
お彼岸の雑学満載。
そして新キャラ(和江の従弟)登場を匂わせる回となりました。
※オタク漫画家・沢田文雄――今後、短編小説「これも何かの縁」でのメインキャラとなっていきます。
もちろん、漫画つながりで、あの長山春香も絡んできます。
沢田文雄は5月編(34編目)から、長山春香は6月編(36編目)から登場します。
では、以下本文。
・・・
お彼岸の休日。
春の訪れを感じさせる暖かい日となり、静也と理沙は息子の涼也を連れて四条家のお墓参りに来た。
仏教では、煩悩に満ちた現世を『此岸』、この世を渡り切って到達した悟りの境地を『彼方の岸=彼岸』と呼んでいる。
煩悩から解き放たれた彼岸は極楽浄土だ。そこで彼岸は『極楽浄土=死者が行くあの世』と捉えられるようになっていったのだろう。
そして此岸は東にあり、彼岸は西にあるとされていることから、太陽が真東から顔を出し真西に沈む昼と夜の長さが均等になる春分と秋分は『この世である此岸』と『あの世である彼岸』が通じる時と考えられるようになり――春分・秋分の日にあの世にいる先祖を供養するようになったのだ。
と、お寺への道中、お眠の涼也を抱っこ紐で前に抱きながら歩く静也のうんちくが例のごとく始まっていた。
「けど、お彼岸って日本だけの行事なんだってな。インドやほかの仏教国にはないらしい」
「へえ」
理沙は適当に相槌を打つ。以前のお彼岸の時も聞いたような聞かなかったような……ま、いつもの四条夫婦の風景だ。
一家は古びた寺の門をくぐる。その両脇には参拝客を出迎えるように彼岸桜が枝を伸ばし、薄桃色の花を咲かせている。ふんわりとしたそよ風が心地よい。
まず寺の本堂を訪ね、住職に挨拶をした後、墓地へ向かった。
歩を進めていくうちに、街のざわめきが消えていき、異世界に入り込んだ気分になる。
お参りする人々の間を縫いながら石畳の道を行くと数々の墓石が見えてきた。
あちこちから漂ってくる線香の匂いが鼻をくすぐる。
「ここだね」
四条家の墓は、他家の大小様々な墓石が並ぶ中にひっそりと佇んでいた。
静也の腕の中で涼也がぐずり出した。いや、ぐずったのではなく涼也なりのご先祖様への挨拶なのかもしれない。
涼也のことは静也に任せ、墓石の前に立った理沙は頭を少し垂れながら、近くの店で買った金盞花を供え線香をあげた。
なお、水かけはやめておく。
先祖や故人の魂が清められるという説もあるけれど、ご先祖様に冷水をかける行為で失礼になるという考えもあるようだ。
静也があやしているうちに涼也がおとなしくなった。
墓前で二人は涼也のことを報告する。
淡い日差しの中、線香の煙がゆらゆらと立ち上り、そよ風の中へと消え、穏やかな時が流れる。
この世とあの世がつながるお彼岸の日、線香の匂いに導かれ、トリップした気分を味わうものの、墓参り客のざわめきが耳をくすぐり、現世に引き戻される。
「さてと……行こうか」
「うん」
静也と理沙は元来た道を引き返す。涼也はまたうつらうつらとしている。
ふと辺りを見回すと、あちこちのお墓にはお花やお線香のほかに供物として『ぼたもち』を捧げているところもあった。
「お彼岸といえば、やっぱり『ぼたもち』とか『おはぎ』よね」
甘いものが大好きな理沙はちょっと物欲しそうな目を向ける。供物として一時的に置かれているものの、持ち帰るように住職からお願いされているので、帰ったらあとでいただくのだろう。
すると静也はこう応えた。
「春のお彼岸は『ぼたもち』だな。『おはぎ』は秋だ」
「あ、そうか。中身は同じようなものだよね」
「ああ、季節で呼び名が変わるだけだよな。ぼたもちは春に咲く牡丹から来ているんだ。おはぎのほうは秋に咲く萩の花ってわけだ」
「なるほどね」
「牡丹は大きくて丸い花だから、ぼたもちも丸く大き目に作られるよな。一方の萩は、小ぶりで細長い花だから、おはぎも小ぶりに俵型にしているってことで、形が違うよな。で、ぼたもちはこしあん、おはぎは粒あんだよな」
「そういえば、そうだよね」
「ぼたもち、帰りに買っていくか?」
「もちろん」
そんな話をしつつ、涼也を抱っこした静也と理沙は寺を後にする。理沙の家のお墓へは次の休日の時に参る予定だ。
「お腹も空いたし、ちょっと急ごうか」
「そうだね。涼也にとって長過ぎる外出は避けたいしね」
静也と理沙は足を速めた。
道の途中で、墓参りにやって来た人々と何度かすれ違う。
が、その中に見知った顔があり、思わず足を止めてしまった。
相手も意外そうな顔をして、こっちを見ていた。あの小林主任だった。
あまりに突然のことで静也も理沙も頭を下げるものの、気の利いた言葉が出てこない。
先に小林主任のほうから声がかかる。
「あら、奇遇ね。お寺はこちらだったの?」
主任の隣には母親らしき人、その後ろに夫婦らしき大人の男女とその娘だろう女の子がいた。
「あ、はい」
静也と理沙は顔を見合わせ頷いたが、どう会話を繋げればいいのか分からず、口をつぐむ。
その間に小林主任は「それじゃ、先を急ぐので失礼」と軽く会釈をし、連れの人たちに静也と理沙を紹介することなく、赤ん坊の涼也について何かおべっかを言うのでもなく、早々に去っていった。
二人はホッとする。小林主任の後ろ姿を見やり、反対方向へ歩を進める。
「まさか……こんなところで会うなんてな」
「びっくりした~」
小林主任が話を長引かせずに、すぐに行ってくれて良かった、というのが二人の正直な気持ちだった。
小林主任のほうも、そんな静也と理沙の気持ちを察してくれたのかもしれない。
せっかくの休日、煩わしいことからは距離を置きたい。親しくない職場の知人への挨拶なんて面倒以外何物でもない。
確か、寺へ行く途中に和菓子店があったっけ。そこで、ぼたもちを買って、早く帰ろう。
静也と理沙の足はいっそう速まる。
・・・
――こんなところで四条カップルに会うなんて……。どっちの家かは知らないけど、まさか同じお寺とは……奇妙な縁があるものね。
小林和江は母と弟家族と共に小林家の墓参りに来ていた。
今までならお彼岸のお墓参りなど何かと理由をつけて断っていた弟夫婦は今回、母の敏子に「大切な話がある」と誘われ、それが自分たちへの経済的援助つまり生前贈与の話になることを察し、やって来たようだ。
――現金なものね……。
和江は改めて弟夫婦に呆れた。
子どもへ分不相応な教育費をかけ、経済的余裕をなくすよりも、そういう自分たちの心根を正してほしいものだ。
和江と弟夫婦は、お互い目線をあまり合わせず、距離を置いていた。会話もなかった。
和江は密かにため息を吐く。
四条静也よりも、弟夫婦との関係のほうがずっと険悪になってしまった……。
お金が絡むと家族の情も簡単に吹っ飛んでしまう。
が所詮、姉弟の絆とはそんなものかもしれない。所帯が別になれば、縁は薄くなる。下手すれば敵対する。
小林家の墓に着くと、和江らは花を手向け、線香を立てた。黙とうし手を合わせる。線香の匂いが束の間、気分を落ち着かせてくれた。
こうしていつもの儀式を終えた一同は今来た道を引き返し、寺を出て、その足で予約しておいた和食レストランへ向かう。寺から5分ほど歩く距離にある和江の母・敏子のお気に入りの店だ。
そこは古民家を彷彿させる2階建て木造建築で、店内はほのかな暖色系の灯りが燈り、レトロな雰囲気を漂わせていた。
一同は座敷に案内され、それぞれが席に着く。
和江と母・敏子が並び、向かいに弟家族が座った。
弟夫婦の一人娘の恵理子も両親に挟まれ、おとなしくしていた。聞き分けが良く頭がいい子だ。
和江も、姪に当たる恵美子のことは内心買っていた。
お茶とおしぼりが出てきて、一息ついたところで敏子が口を開いた。
「で、これからのことなんだけど……5月から文雄君がうちで暮らすことになってね」
「え? 文雄君が? どうして?」
弟の和彦が怪訝そうな顔を母親に向ける。妻の真理子も眉をひそめていた。
和江はすでに知っていることなので、何の反応もせず黙ったまま、お茶を啜る。
「文雄君、やっと漫画の連載の仕事がとれたらしいのよ」
母・敏子もそのまま弟夫婦にことの詳細を説明する。
沢田文雄は今年35歳になる和江の従弟。母・敏子の姉の息子だ。
和江は先日、小林家の部屋を借りることで挨拶に来た文雄のことを思い出す。
――文雄は相変わらずおとなしく、人前でしゃべるのが不得手そうだった。
いや、自分の得意分野であればノリノリでお話できるのだけど、それ以外の話題にはついていけず、基本、人の輪に入るのが苦手な青年だ。いわゆる世間一般で言われているオタクというヤツである。
礼儀正しく真面目であることが唯一の取り柄。メガネをかけ、風貌もひょろんとして、とても30半ばには見えず、ややもすれば大学生でも通る。
でもそれは若く見えるというよりも、幼く見えるといったほうが正しかった。
そんな文雄は大学卒業後も漫画家を目指しながらバイトをし、親と一緒に実家で暮らしていた。父親は6年前に亡くなっている。
30歳の時にやっとデビューできたのだが、デビューしてすぐに商業誌で連載がとれる漫画家などごく僅かだ。その後も読み切りがたまに載ればいいほうで、デビューしたはいいがそのまま消えていく人も多い。
そして漫画連載の仕事が決まる10カ月前、文雄の母親が脳出血を起こして倒れ、不自由な体となった。
息子に面倒はかけたくないと、文雄の母は介護付き有料老人ホームに入ることを決め、その資金に家を売ることになっていたのだが――文雄の母は息子のことをしきりに心配していた。
連載の仕事が決まったのはいいが、原稿料だけで生活を賄っていくのは相当に厳しい。アシスタントの人件費などで原稿料はほぼ吹っ飛んでしまう。
なので安く借りられる仕事部屋があるといいのだけど、といった相談を和江の母・敏子は受けていた。
漫画連載の仕事にはアシスタントが2、3人ほど必要で、徹夜仕事で寝泊まりすることもあり、そのためある程度の広さが欲しいという。
が、その連載もどのくらい続けることができるのかは分からない。それは読者の人気投票で決まり、人気がなければ打ち切りとなる不安定極まりない厳しい世界だ。
その話を母から聞いた和江は「うちは部屋は余っているので、文雄が使ってはどうか」と持ちかけた。
「その代わり、自分はこの家を出ていく」「弟夫婦の不信感を払拭するためにもそのほうがいい」と自分の考えを母に聞いてもらった。
文雄から家賃を取り、それを弟夫婦への援助に使えばいい。自分がいなくなっても、親族である文雄が母の傍にいてくれるなら安心だ。
和江と弟夫婦の溝に心を痛めていた母・敏子もその話に乗った。それが一番いい解決策に思えた。
敏子の姉=文雄の母もそれなら安心だと喜んでくれた。
万一、文雄が経済的困難に陥っても、そこは親族のよしみで猶予を与えられ、ある程度の融通を利かせてもらえるだろう。これで心置きなく家を売って、老人ホーム入居費用の足しにできる。
――そういった話を敏子は、息子の和彦とその妻の真理子に聞かせた。
母の話が一段落ついたところで、和江が口を開く。
「というわけで私は家を出るから、これでいいでしょ?」
そう言って、弟の和彦とその妻の真理子へ交互に視線を向けた。
和彦は憮然としたまま和江を見返す。
「文雄君にいくらで貸すの?」
「さあ、それは知らない。私が決めることではないしね。あそこは母さんの家だから」
そう応えた和江は、母に目をやった。
母は和江に頷き返し、再び和彦へ視線を戻す。
「まあ、文雄も最初は経済状況が厳しいらしいから、当分、家賃は月5万円で……」
「安くないか? キッチンや風呂やトイレも使うんだろ。で、それは母さんが掃除するんだろ? 食事は別々なの? 水道や光熱費の負担は?」
和彦は憮然とした表情を今度は母に向ける。妻の真理子も眉をひそめたままだ。
「そうねえ、お料理はどうせ余るから食べてもらって、食費もいくらかいただくことにしようかしらね。水道や電気料金のことは考えてなかったわ。確かにこちらもいくらか負担してもらったほうがいいのかしらねえ」
「そういうことも決めてなかったの? 曖昧にしないでちゃんと決めないとダメだろ」
「確かにそのとおりね。そのへんは文雄君と相談してみるわ」
母・敏子は相変わらずのんびりした調子だ。
「口約束ではなく書面にしたほうがいい。姉さん、そういったところの面倒は見てないの?」
埒が明かないと思ったのか、和彦は苛立ちの色を隠さず、責めの矛先を和江に向ける。
「だって私が口出ししたら、あなたたちが嫌がるでしょ? 私を信用してないようだし」
和江は片眉を上げ、皮肉で返した。
「まあまあ、二人とも喧嘩腰になりなさんな。その辺にしておきなさい」
母は和江と和彦をたしなめると、こう応えた。
「詳しいことは文雄君と相談して決めておくわ」
すると「お客様、失礼致します」とお店の配膳人が現れ、注文した料理を運んできた。
「まあ、おいしそう」
場の空気を変えようとするかのように、母・敏子は声をあげた。
小鉢に入った前菜――胡麻だれの豆腐サラダ、帆立と三つ葉の胡桃あんかけ、菜の花の白和えがテーブルに並んだ。
「さあ、ギスギスした話はここまでにして、いただきましょう」
母はポンと手を叩く。
「そうね。いただきます」
和江も母に倣うと、和彦と真理子も後に続いた。
大人たちの尖がった場が和らいだことで、弟夫婦の娘・恵美子も強張らせていた頬を緩ませ「いただきます」と手を合わせた。
「恵美子ちゃんはほんとイイ子ね。真理子さんのしつけの賜物ね」
敏子は真理子と恵美子に笑みを投げかける。
真理子も「恐れ入ります」とはにかみ、愛娘を見やった。
各々は箸を取り、日本料理の繊細な味わいに舌鼓を打つ。
敏子は度々、孫の恵美子に話しかけ、和彦も真理子もその会話に参加し、刺々しかった空気は穏やかなものになっていった。
和江は一歩引き、その様子を見守る。自分はその輪に入れないが、母が楽しそうにしていることでホッとする。
その後、茶わん蒸しや春野菜の天ぷら、刺身、鰻のセイロ蒸しが次々と運ばれてきた。
各々は繊細な味付けの和風料理をゆったりと楽しむ。
締めは筍とあさりの炊き込みご飯と汁物――春の風味が口いっぱいに広がる。
恵美子はまだ幼いのに、この大人向けの料理の味が分かるのか、おいしそうに食べている。味覚も発達しているようだ。そこいらの子どもとはちょっと違う風格のようなものを恵美子はまとっていた。
――なるほど、弟夫婦が娘に期待するのも無理はないか。
和江は感心しながら恵美子を見つめた。
大方の料理を食べ終えた頃を見計らい、和江は弟夫婦に念押しするように話しかけた。
「これでお互いスッキリするでしょ。距離を置いて、大人として上手くつきあっていきましょう。何事にもできるだけ公平を心掛けて。負担も平等にね」
和江の言葉に弟夫婦は居心地悪そうにお互いを見合うだけだった。
そう、正月に弟夫婦から発せられた和江への不信感――あの時は愕然としたが、弟夫婦から見れば、当然かもしれない。
自分の認識が甘かった。ならば弟夫婦が疑心暗鬼に陥らないように振る舞うしかない。実家を出るのが一番だ。弟夫婦が和江に対して抱えていた不公平感は、これで解消されたはずである。
しかし……弟夫婦からそう思われていた事実は消せない。無礼な言動をした弟夫婦から真摯な謝罪がない限り、打ち解けることはないだろう。
和江は自分の権利はきっちり主張していくつもりだ。
弟夫婦が、母から特別に経済支援を受けるのならば、母が介護が必要になった時、彼らにも相応の負担を求める。
それがなかった場合、遺産相続の取り分において、弟夫婦が生前贈与を受けていたことを考慮してもらうことになる。
こちらが不当に譲ったりすることはない。
そんなことを考えてしまう自分が嫌になるが、お金が欲しいわけではなく、蔑にされるのが許せないのだ。自尊心の問題だった。
が、今の弟夫婦の態度からも、和江のことを尊重してくれるとは思えなかった。この調子では将来も何か問題が起きる度に面倒な話し合いが生じ、その度に心をすり減らすのだろう。
和江は小さくため息を漏らす。
欲や自尊心を捨て去った悟りの彼岸に到達するのは難しい。
でも、煩悩に満ちた現世である此岸で迷いながら生きるのが人間の宿命かもしれない。
そして死を迎える時、己が消滅することで、欲や自尊心から解放され、彼岸へ行けるのだろう……。
「デザートをお持ちしました」再びお店の配膳係がやってきて、テーブルの上を片付け、ガラスの小鉢に丸く盛られた豆乳と小豆のアイスクリームを置いていった。
薄黄色の豆乳アイスには黒蜜がかかっている。
和江はスプーンでその豆乳アイスをすくい、口へ運んだ。
――おいしい……。
上品な甘さが口の中でとろける。
ささくれた心が和み、満たされる。
――欲にまみれた此岸の世界も悪くない……。
ふとそんなことを思った穏やかなお彼岸の春の日。
此岸と呼ばれるこの世を存分に楽しもうと思い直す和江であった。
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2017-01-21 15:24
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コメント(2)
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和江を思うと弟夫婦の対応が嫌で仕方がなかったのですが、弟の立場を考えると言いたくないけど言わざるを得ない状況もわかります。
奥さんへの気遣いもあるでしょうし。
後々に自分を恥じることにはなりそうですけど。
こういう家族間の争いは避けられないのでしょうね。
仕方がないんですね。
でも…
母・敏子の思いはどうなんでしょう。
残り、そんなにふんだんにあるかわからない大事な時間を娘の和江と一緒に暮らしたかったんじゃないのかな…
そう思うと切ないです。
by 瑠璃色 (2017-01-22 10:58)
実は、一見、収束したかに見えたこの問題は意外な方向へいってしまいます。
母・敏子と和江の関係も微妙に変化します。
それは11月編にて^^
人間関係、親族であっても難しいですよね(というか親族だからこそ?)
by ハヤシ (2017-01-22 12:51)